バレスはランニングを終えるとシャツの裾で汗を拭いた。そして剣を引き抜くと空を斬るように振り下ろした。何度も何度も。まるで思いを断ち切るかのように。

当時6歳の俺に他になんと言えただろう。
王様からの口止めで王妃様のことは姫には内緒にするよう言われていた。姫が大きくなってから話すと仰られていた。
それゆえ、俺は困った。姫様は賢い方だからへたな嘘ではすぐにばれてしまう。だから俺は…
「王妃様はお出かけになられました。」と言った。
姫様は不思議そうな顔をして聞いた。
「いつお帰りになるの?」と。
「わかりません。とても遠い国なので。」

そう。とても遠い国…。生きている人は絶対に辿り着けない国…。天国へ……。

太陽が出てきた。
バレスは剣を下ろした。

姫様は王妃様のことを5歳の誕生日に聞かされた。しばらくはふさぎ込んで部屋に閉じこもっていたが、一週間後にはケロッとして出てきた。城の者達は安心していたが、俺は気付いた。
姫様は王妃様のことを克服されたんじゃない。
姫様は王妃様の存在自体を忘れたんだ……

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