土崎は数歩歩いてから私に気付いた。
そして立ち止まった。

美和子が長い髪を耳にかけ直すのが見えた。
(絶対視線は逸らさない…)
それが私のささやかな意地だった。
本当は恐くて恐くて仕方ない。病気は完治したけど心の傷は深かった。
小さく溜め息をついてから洩らす声。
「…あたしも別にあんた嫌いじゃなかったよ。あんたの居場所、無くならせて悪かったね。」
その言葉に私が驚くより早く土崎がニヤリと笑って私の肩を引っ張った。
「俺の卒業証書、羨ましいだろー?」
「羨ましくなんかッ…」
「歌織、人の話聞いてるのー?!」

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