「…何。恩でも売るつもり?」
鏡子が鋭い目を向けた。

「いいえ。」
悠紀は鏡子に歩み寄り、足下に落ちていたカッターを拾い上げた。そして…!


ザクッ。


…悠紀は“自分の”黒髪を切り落としていた

「な…!?」
鏡子はあっけにとられた。

「…悠紀様!?」
周りのガード達もお嬢様の奇行に驚いている。

悠紀は静かに告げた。
「…私にも非はありました。だからあなたを責めはしません。けれど…」

悠紀は掴んでいた髪の束を離した。

「…あなたにはしでかした事の大きさを忘れないでもらいたいのです。」

真っ直ぐに向けられた目は強い意思を持っていた。


「…ぁ……」
鏡子は小さくうめいた。

そしてはっきりと悟った。
“敵わない”と。

(彼女は自分にも非があると言った。その上で、彼女が髪を切ると、周りは、あたかも彼女の非の方が大きいように思う。

…彼女は自ら髪を切ることで、私を守ろうとしている。

…本当に敵わない…)

「…ばっかじゃないの…っ」
鏡子の口から思わずそんな言葉がこぼれた。


< 35 >

[1]次へ
[2]戻る

[0]目次

Tag!小説


トホーム