「…何。恩でも売るつもり?」
鏡子が鋭い目を向けた。
「いいえ。」
悠紀は鏡子に歩み寄り、足下に落ちていたカッターを拾い上げた。そして…!
ザクッ。
…悠紀は“自分の”黒髪を切り落としていた
「な…!?」
鏡子はあっけにとられた。
「…悠紀様!?」
周りのガード達もお嬢様の奇行に驚いている。
悠紀は静かに告げた。
「…私にも非はありました。だからあなたを責めはしません。けれど…」
悠紀は掴んでいた髪の束を離した。
「…あなたにはしでかした事の大きさを忘れないでもらいたいのです。」
真っ直ぐに向けられた目は強い意思を持っていた。
「…ぁ……」
鏡子は小さくうめいた。
そしてはっきりと悟った。
“敵わない”と。
(彼女は自分にも非があると言った。その上で、彼女が髪を切ると、周りは、あたかも彼女の非の方が大きいように思う。
…彼女は自ら髪を切ることで、私を守ろうとしている。
…本当に敵わない…)
「…ばっかじゃないの…っ」
鏡子の口から思わずそんな言葉がこぼれた。
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