英語の授業。指された生徒達が次々と英文を読み上げていく。けれど悠紀の頭には一言も入ってこない。

(深く、考えてはいけない…)
悠紀は自分に言い聞かせる。
(…人を嫌うとか、そんな考えは持ってはいけない…っ)

カタン。
高瀬が指名されて立ち上がる。
香る、鈴蘭の香り。

悠紀は形だけでも持っていた教科書を放した。
(だ…め…っ。そんな考えは…いけない…っ)
必死に抑えようとする。けれど…

「次を水上。」
教師が見もせずに言う。でも悠紀は俯いていた。長い髪に隠れ表情は見えない。
「…82ページの12行目だ。」
教師が教科書を見つめたまま告げる。それでも悠紀は立たなかった。
『おいっ水上!呼ばれてんで!』
葵が教科書の影からひそひそ囁く。でもその声も悠紀には届かない。

「もういい。次!」
誰もが悠紀は居眠りをしていると思った。そんな中、葵は唯一悠紀の表情を伺える位置にいた。

(…あんな虚ろな目…どうしちゃったんだよ…水上…)

悠紀はただ一つの想いに囚われていた。

(…長い黒髪…鈴蘭の…女…)

< 14 >

[1]次へ
[2]戻る

[0]目次

Tag!小説


トホーム