「おはようございます。」
悠紀は自分の前の席の高瀬とその横の葵に挨拶をした。
「おう!重役出勤だな、水上。」
葵が言う。HRはとっくに終わっている。
「出掛けにトラブルがありまして…」
悠紀は苦笑した。
「おはよう、悠紀。」
高瀬も挨拶を返す。そこへ先生が入ってくる。授業の始まりだ。

悠紀は席につき鞄を開ける。

ふわ…っ。
悠紀の鼻に花の香り。

(これは……)
悠紀は鞄を探っていた手を止めた。それに気付いた高瀬が振り向く。
「忘れ物か?」

ふわっ。高瀬の動きに合わせて漂う匂い。

鈴蘭の香り。

高瀬の周りではおよそ嗅ぐことのない女物の甘ったるい香水…。

(あ…)
悠紀は先程の女生徒たちの会話を思い出す。

鈴蘭の生徒と楽しそうに…

悠紀様と同じ長い黒髪…

「…悠紀?」
高瀬が怪訝な顔付きで見つめている。悠紀はハッとして
「大丈夫です。ちゃんとあります」
と言って笑った。

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