葵はそう言うと戦いへと戻っていってしまった。
取り残された二人。

(…仕方ない。少々格好悪いが…)
高瀬が諦めて葵の言う通りにしようと思った時だった。

ふわ…っ。

悠紀が高瀬に抱きついた。

「!?ゆ…悠紀!?」
高瀬が予想外の行動に戸惑っていると

「私はあなたと戦いたくありません。」
悠紀は客席まで響く声で言った。

(…ああ、収拾を付けようとしてるのか。)
高瀬は納得して、なされるがまま、抱きつかれていることにした。こういう時の対応は悠紀のほうが上手い。

悠紀が続けて言う。
「私はあなたが好きです。誰かに反対されたからといって諦められるような想いではありません。」

客席がしーんとしてきた。悠紀の高瀬を抱き締める腕に力がこもる。

「…私もあなたを自分から手放すつもりはないです。離れるつもりもありませんっだから…っ」

悠紀は高瀬を見つめた。
そこにいたのは"水上ミーナ"ではなかった。
それは、高瀬の事が大好きな"水上悠紀"の言葉だった。

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