彼女はゆっくりと顔を上げた。その顔はなんと笑っていた。
そぅか…コイツ…
最後まで…
「ありがとぅ」
「…なんで…」
「一希…本当のこと言ってくれて嬉しかった。」
「…」
言葉が出なかった。
本当はものすごく辛いはず。
なのに明るく笑ってられる強さ。相手を傷付けまいとする優しさ。
改めて思ぅ。
…春華はすごい奴だ。
「春華…」
俺は彼女の体を思いきり抱き締めた。それが今できる精一杯だった。
「…ずき…離れたくないょ…」
泣きながら、そぅ繰り返す。
そんな彼女を見ていると、涙が自然に溢れてきた。辛さが一気に押し寄せてきたみたいに。
「ごめん…」
こんな言葉じゃすまないことだけど。
「今までありがとぅ」
別れ間際に、春華が言った。その声はもぅ、震えてはいなかった。
「短い間だったけど楽しかった。幸せになってね」
そぅ言って、手を握った。
それが、最後だった。
手に残った微かなぬくもりを感じながら思った。
…終わったんだ。
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