彼の話は簡単に言うと職場がイヤで止めたい、ということらしい。私なんて何回思ったことか、患者が亡くなるたびに、そぅ思っていた。違うのは他にやりたいことがある、ということだった。何となく大学を出て何となく営業の仕事に就いたらしい。
「劇団に入りたいんだ。演劇を学びたい。」
彼は子供のような声で夢を語った。置いてきたんじゃない。封印していたのだ。嬉しかった。あの時の健ちゃんだった。
「素敵だょ!頑張ってみたら?才能有ると思う!」
百%本心。いいな、尊敬しちゃう。夢をまだ追い掛けている。
ふと思った。違う、現実的なあの人とは全然違う、と。
「なんか元気出た!さんきゅーな」
お安い御用。元気に振る舞っただけだ。話題を変えよう。
「ところで藤野君、彼女できたぁ〜?」
いないだろう。私に相談してくるぐらいだから。
「いないよ〜しばらく女はいいかなぁ」
なんか親近感。お互い色々あったのね。
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