「利砂子?」

「……え、何ですか?」

「ぼーっとしすぎ!」

「あ、すいません!!この店いいですね!料理もおいしいし」

「だろ?この前仕事で来てさ」


学生の頃、彼氏のことでよく相談にのってくれるたびに青木先輩はラーメンに連れて行ってくれた。

バイクでラーメンだったのが、今じゃ車で高級レストラン。

別の人と一緒にいるみたい。


「先輩とラーメンも結構好きでしたけどね」

「おー懐かしいな。何か意外だけど」

「え?」


青木先輩はグラスを片手に窓の外の夜景を眺めながら口を開いた。



「久しぶりに見た利砂子はスーツの似合うキャリアウーマンになっててびっくりした。大企業にも勤めてたみたいだし、何か住む世界が違うっていうか…お高そうに見えたよ」

「…………」

「だから、高級レストランよりラーメンのがいいって言葉に驚いたような…ちょっとホッとしたような」


青木先輩がまじめな口調で話している間、私はテーブルの真ん中で静かに燃えるろうそくをただ見つめていた。

きっと、あの人と付き合っていた頃の私なら高級レストランを選んだだろう。

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