コーヒーを口に運ぶ。

ほろ苦い味が口の中に広がっていく。

大人の味が私を包む。


「どうするの?」


鏡で化粧をチェックしながら由利は聞いてくる。

私はカップをひとまず置いた。


「挑戦してみる?」


由利の質問の意味は分かっていた。そのとき…



♪〜♪〜♪〜


由利の携帯が鳴った。



「ちょっと待ってて」


由利は席を立った。
仕事場からの電話だろう。


コーヒーの味に浸りながら外の人々の忙しさに目をやった。

数ヶ月前までは私もあの人の波の中にいた。
やっぱりどこか懐かしさがあった。


「……あ、また」


人混みの中に真と女の子の姿を見つけてしまった。
たださっきと違うのは、二人が手を繋いでいること。


「ごめん〜仕事入っちゃった!」


由利が申し訳なさそうに席に戻って来た。


「いいよ、私も夕方から仕事だし」

店を出ると、由利は片手をあげながら忙しそうに人の波に流れて行った。
結局、由利の質問に答えることはなかった。

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