「ふたりでいること」


土田と私は築二十年のボロアパートに住んでいて、土田の描く絵と私のバイト代で暮らしていたから生活は貧しかった。でも私はとても幸せだった。
土田の背中は広くて暖かだった。私が酔っ払ってしまうと「有希はこれだからなぁ」と呆れるように笑っておんぶして家まで連れて帰ってくれた。私は父親を知らないのに「土田おとおさんみたいね」と言って笑った。あの愛しい背中は
もう、ない。
棺のなかで土田は小さく小さくなってしまった。明日の通夜にはあまり大勢のひとがこないと思う。土田と私は親も親戚もなかった。そういう悲しいふたりだったんだと思う。今日は葬儀屋に土田とふたりで泊まる。ビジネスホテルのような部屋に布団を敷いた。

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