…だからなんだ。だからあの時。あんなに哀しそうな顔をしたんだ。私が初めて木崎に会った時。そして彼が私に自分の名を告げた時。

…私は、はっきり覚えてる。

そしてだから彼は自分の名を呼ばれるのを嫌うのだ。
「でも言っとくけど俺は親父の事、好きではないけど憎んだりはしてねぇよ」木崎は私の隣の席に座って言った。
「憎悪とか、そんな感情ぶつけてもどうにもなんねぇし。せめておふくろが少しは楽に暮らせるように俺もこうして稼いでんだ」

ガンガンにきいた冷房の風の中、木崎の淹れてくれたコーヒーの湯気が儚げに揺れていた。

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