真は私の隣を歩いてくれた。



私と同じ歩幅で、あの笑顔を向けながら…。



どっちも嫌いじゃない。





「利砂子は今彼氏いる?」

「いたら仕事なんかしてませんよ」

「ははっ、そりゃそーか」

「笑い事じゃないですよ!」


青木先輩は昔はめちゃくちゃなことをやってた人だったけど、今は全然真面目な社会人になっていた。

だから久しぶりに再会したこの日、何度か思わず吹き出してしまった。


「久しぶりだし、どっか飯食いに行くか?!奢ってやるよ」

「気前いいですねー!じゃぁ日空けときます」


そんな約束のあと、上司になる人たちに挨拶にまわり、仕事内容を説明された。

会社は全然違うけれど、この「仕事場」という空気が少し懐かしいような気がした。

鳴り響く電話の音。
その受話器を取り、応対する声。
女性のヒールや男性の靴音。
コピー機の規則正しい音。




夏の暑さも和らいできた秋の始め、学生の子たちとは無縁のこの場所で新しい生活が始まる。

< 86 >

[1]次へ
[2]戻る

[0]目次

Tag!小説


トホーム